片頭痛とピルの内服、脳梗塞の関係について
【医師監修】片頭痛とピルの併用による脳梗塞リスク|喫煙が加わるとリスクは何倍に?
■ ピル内服と片頭痛は脳梗塞リスクをどう変化させる?
ピルは女性の避妊や月経困難症に広く使用されている一方で、「片頭痛」や「喫煙」といった背景因子がある場合には、脳梗塞のリスクを増加させることが複数の研究から明らかになっています。
■ 片頭痛+ピル+喫煙が重なると、脳梗塞のリスクは最大何倍に?
◆ リスク比較(オッズ比)を図で解説
条件 | 脳梗塞リスク(OR) | 出典 |
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非片頭痛・非ピル・非喫煙 | 1.0(基準) | – |
ピル使用のみ | 約2.5倍 | Sacco et al. 2017 |
オーラあり片頭痛のみ | 約2.3倍 | Schürks et al. 2009 |
オーラあり片頭痛+ピル | 約6.1倍 | Sheikh et al. 2018 |
オーラあり+ピル+喫煙 | 約7.0倍 | Calhoun et al. 2017 |
オーラなし片頭痛+ピル | 約1.8倍 | 同上 |
■ なぜリスクが上がるのか?そのメカニズムとは
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エストロゲンが多く含まれているピルは、凝固系に作用し血栓形成を促進します。
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**片頭痛(特にオーラあり)**では、脳の血流変化や血管内皮の脆弱性が存在し、もともと脳梗塞リスクが高いとされます。
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喫煙はさらに動脈硬化を進行させ、血管収縮作用も重なるため、三重のリスクとなります。
単純にピルの内服で脳梗塞のリスクは高まるのですが(低用量ピルであれば比較的安全という報告もあります)、単純に前兆のある片頭痛の方も脳梗塞リスクは高まります。喫煙でも血管が収縮したり動脈硬化が進行するので同様です。つまり、前兆のある片頭痛×ピルの内服×喫煙は相乗効果で脳梗塞リスクがさらに高まってしまうと言えます。(ちなみにOR:オッズ比という統計学的指標は純粋に脳梗塞が~倍起こりやすいという解釈ではなく、ざっくりとした比較のための指標であることはご注意ください)
■ 絶対リスク(年間発症率)から見ると?
条件 | 年間脳梗塞発症率(10万人あたり) |
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健常女性(20〜44歳) | 約2.5人 |
ピル使用のみ | 約6.3人 |
オーラあり片頭痛+ピル | 約36.9人 |
下記の参考文献をみるに若い女性で脳梗塞を発症される方はそもそも少ないです。ピルの内服により一見すると脳梗塞リスクは約3倍になっていますが、そもそもが脳梗塞になる人が少なすぎるのでそれが3倍になろうが対して変わらないという解釈はできなくはないです。しかし、脳梗塞リスクが高くなるのは紛れもない事実ですし、前兆のある片頭痛の患者さんがピルを内服すると相乗効果でさらにリスクが高まることはこの表から見て取れます。
※出典:Sacco et al., Neurol Sci, 2017
■ 医学的ガイドラインはどう位置づけているか?
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日本頭痛学会、 EHF(欧州頭痛学会)、日本産婦人科学会 いずれも、
「オーラを伴う片頭痛を有する女性において、CHCの使用は原則禁忌」
としています。 -
オーラがない片頭痛(without aura)では、年齢・血圧・喫煙歴・その他の血栓リスクを総合的に評価し、慎重な判断のもと処方可能とされています。
前兆のない片頭痛の方であっても、ピルの内服が開始される前に脳梗塞発症リスクが高くないかは調べておいたほうがよいでしょう。